むかしどこかで読んで、部分的に覚えているのだが、誰が書いたどんな作品なのか分からない…そんな経験は誰にでもあるだろう。

桃色の川は流れる (1981年) (角川文庫) [文庫] / 矢野 徹 (著); 角川書店 (刊)

 実は「静岡SF」というお題が実行委から示された時に、真っ先に思いついたのがこの作品であった。作者の名前も分からない。とにかく覚えていたのは、子供のころ、学研の「学習と科学」に収録されていたジュヴナイルSFで、タイトルが「トムトムとトモコ空港」ということだけ。友好的な宇宙人が駿河湾のヘドロをさらってきれいにし、海上空港を作ってくれる。ということは記憶に残っていた。しかし何しろ見たのは「学習と科学」である。現在入手できる可能性はほとんどないだろう。

 とりあえずだめもとでyahooにて「トムトムとトモコ空港」と検索してみた。なんと複数のサイトがヒット。私が当時見た初出誌もあっさり判明してしまった。ネットの情報力は誠に恐ろしい。

1978年『4年の学習・科学/読み物特集号』

つまり夏休みに読書に関心を持ってもらうべくまとめられた、児童文学の別冊アンソロジーに収録されていたわけだ。ああ…私の年齢がバレてしまった。…それはさておき。

 腰を抜かすほど驚いたのは、肝心の作者があの矢野徹であったということ。そんなビックネームであったとは!もちろん当時は知る由もない。侮りがたし「4年の学習」。そしてさらに検索して分かったのは、現在は残念ながら絶版であるものの、角川文庫から矢野徹の短編集の一冊としてちゃんと刊行されていたということだった。別に幻の作品でもなんでもない。とりあえず取り寄せて読んでみた。

 物語の舞台は公害時代の静岡。病院でひっそりと療養するひとりの目の見えない少女トモコがいた。そこにひょっこりと宇宙人の少年トムトムが訪れる。少年は地球人から見ると醜い姿をしているが極めて友好的。少女の目が見えないことが幸いし、偏見を持たずに少年と友情を結ぶことができた。宇宙人たちは、二人の友情をテコに交渉を進め、地球と友好関係を結ぶことに成功する。人類の悩みの種であった駿河湾のヘドロを取り除き、その泥から海上空港を作ってくれた。その空港は新静岡空港ではなく「トムトムとトモコ空港」と呼ばれるようになった…

 今読むとさすがにめでたしめでたしすぎる。そもそもいまや「友好的宇宙人」という概念自体が成立しないだろう。公害や公共事業に対する考え方も現代とのズレを感じずにはいられない。だがさすがそこは名匠・矢野徹。ひとつひとつのシーンの描写は実に印象的で、静岡県庁に巨大円盤が降下してくるシーンなどは忘れがたいものがある。

 確かにSFは時代とともに腐る。だが、あえて読むとそこには変わらない輝きも確かにある。SFとは何か、と問う時に、これらを見逃すことはできない。世界を違う目で見ようとする態度、それは年齢や時代と関係なく受け継がれていくべきものではなかろうか。本書の系譜上にある若手作家の新作として八杉将司の「光を忘れた星で」を挙げることもできるだろう。

光を忘れた星で (講談社BOX) [単行本(ソフトカバー)] / 八杉 将司, 中山 尚子 (…

光を忘れた星で (講談社BOX) [単行本(ソフトカバー)] / 八杉 将司, 中山 尚子 (著); 講談社 (刊)

 それは決して「盲目」がテーマになっているからということではない。新しい世界に踏み出していく少年少女の畏れのような感覚がしっかりと受け継がれているからだ。それは時代が過ぎても決して消えることはない。私はそう信じている。(高槻 真樹)