部室のドワーフちゃん1 (CR COMICS) [コミック] / 仏さんじょ (著); ジャイ…

部室のドワーフちゃん1 (CR COMICS) [コミック] / 仏さんじょ (著); ジャイブ (刊)

 月刊にせよ週刊にせよ長期間にわたる雑誌連載を主体とした日本のマンガ表現においては、往々にして主人公の影がいつしか薄くなる、という現象が起きる。マンガ連載とは同時に掲載される他作品との仁義なきバトルロワイヤルであり、ごく幸運な少数作品だけが争いに勝ち抜き、長寿連載になる。いや、必ずしも長寿連載が作品にとって幸運とは限らないのもまた常ではあるが。

 何にせよ、読者の耳目を集め続けるためには、次から次へと強烈なキャラクターを登場させ、注意を逸らさないようにしなければならない。もっと別の方法もあったんじゃないかと気付いた時にはもう遅い。キャラクターのパラメーターはハイパーインフレに襲われ、人気キャラ同士の壮絶なしのぎ合いの挙句、気がつけば本来の主人公は蚊帳の外、どこへ行ったかも分からなくなってしまう。マンガの世界では実によくあることである。

 だがしかし。本作品はそうした状況をどこまで意識していたのかよく分からないのだが、実に巧妙な設定でこのジレンマを回避している。そしてそのことが、作者自身もどこまで意識していたのか分からないほどのディープなSF世界へと分け入っていく契機となるのである。

 本書の舞台は静岡のとある高校の手芸部。主人公である少女・空気ひより(これでからき・ひよりと読む)は、もとより存在感が薄く、常にクラスメートから認知してもらえないことに悩んでいた。幼馴染の真緒にさえ、毎年自己紹介されるありさま。そんな性格を何とかしたいと一発奮起、個性的なメンバーぞろいで知られる同校の手芸部に入部する。手芸部とは名ばかりで、その実体はコスプレ部。妖艶な怠け者の部長・優衣以下、暴れん坊な仕切り屋の綾乃、男前美女の桃香、そして寡黙な正体不明の幼女ドワーフちゃんと、それぞれ大変に自己主張が激しい。

 果たしてそんなメンツの中でひよりは忘れられずに自己主張していけるのか。読者は誰しも深刻な不安にとらわれるはずである。何しろ最初から狭い部室の中で存在を忘れられてしまうありさまだ。回を追うに従ってひよりの存在感は過激なまでに薄まっていき、ページの谷間に落ち込むという離れ業までやってのける。先行きは暗い…

 だが、単行本を一冊読み終える頃には、誰しも何かが変だということに気付く。ひよりの影の薄さが非常識なまでに悪化すればするほど、読者にとっての存在感は増していくからだ。第二巻になると、幼馴染のはずの真緒は、ひよりの家にたどり着くことさえできない。

部室のドワーフちゃん(2)(CRコミックス) (CR COMICS) [コミック] / 仏さん…

部室のドワーフちゃん(2)(CRコミックス) (CR COMICS) [コミック] / 仏さんじょ (著); ジャイブ (刊)

実は隣同士であったにもかかわらず、視覚的に隣家が認知できないことが明かされるのだ。大変な苦労をして家に入ってみると、今度はひよりの両親の姿が見えない。目の前にいるにもかかわらず、知覚できないのだという。ここまで来ると、これはもって生まれた性格というよりは、ほとんど超能力に近いものだ。

 思い出す人もいるだろう。たとえば、ドラえもんの「石ころ帽子」、あるいは、クリストファー・プリーストの「魔法」(ハヤカワ文庫FT)。

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 よく考えてみればひよりはプロポーションも豊かだし顔も地味なわけではない。むしろ読者的には目立ちまくっており、タイトルロールのドワーフちゃん以下手芸部の面々の方が脇にやられているほどだ。

 最新の第三巻ではひよりの能力の秘密の一端が明かされる。普段はほとんど視認できないが、なぜかある特定のポーズを取った時だけ、ステルス構造が崩れ、誰の目にも留まるようになる。ここまで来るとギャグとか誇張とかいう領域をはるかに超えている。登場人物の誰もに確認可能な現象としてひよりの不可知能力が認識されるようになり、その現象の法則性を探り出そうとし始めているからだ。

部室のドワーフちゃん③ (CR COMICS) [コミック] / 仏 さんじょ (著); ジャ…

部室のドワーフちゃん③ (CR COMICS) [コミック] / 仏 さんじょ (著); ジャイブ (刊)

 もともとこの作品は高校の部活を舞台とした学園コメディであったはずである。静岡が舞台ということも実は結構重視されていて、これもまた読みどころである。静岡はアニメの放映本数が日本一少ないとも言われる厳しい環境で、主人公たちがエアチェックに七転八倒するエピソードがある。コミケ参加のエピソードでは、さかなセンター前に集合、皆で車に乗って東名高速を東進しながら各地の名物を制覇していく。まずは焼津おさかな工房で朝から船盛り、日本坂PAでは静岡みかんパン、さらにはポーク餅、静岡おでん、揚げチーズケーキ…

 こんなに具体的なのに、こんなに楽しい静岡県ご当地学園コメディなのに、回を追うにつれて加速度的に存在感を増すのはひよりの不可視能力…この作品はいったいどこへ行ってしまうのだろう。どんどん見えなくなっていくのに読者的にはどんどん存在感を高めていく空気ひより。この存在はまさしくSFだ。 (高槻 真樹)