EMOTION the Best 絶対少年 DVD-BOX / 豊永利行, 三橋加奈子, 斎藤…

EMOTION the Best 絶対少年 DVD-BOX / 豊永利行, 三橋加奈子, 斎藤千和, 斎藤恭央 (出演); 望月智充 (監督)

好きなアニメのロケハン地を見つけ出し、訪問してカメラに収める。近年、「聖地巡礼」は、欠かせぬイベントとなった。「けいおん!」の校舎のモデルとなった滋賀県豊郷小は今なお熱心なファンたちの憩いの場だ。今年(2011年)制作された作品では、「花咲くいろは」(石川県湯涌温泉)「あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない」(埼玉県秩父市)など、最初から特定の地域とタイアップしてロケハンし、作品の中にその風景を取り込むことによってファンを観光に誘う例すらある。もはやアニメが地域振興に積極的に関わることは当たり前のこととなった。

「絶対少年」は、それらの系譜のほぼ先頭に位置する作品ではないかと思う。むろん、これに先行する作品もたくさんある。そもそもアニメが現実の光景を積極的に背景に取り込み始めた先駆けは、「機動警察パトレイバーthe Movie」(89年)であろう。それまでも部分的に試みた例はあった。しかし、その場面が現実のどこの風景なのかをはっきり特定できるほど克明な描写とともに全編描ききった作品は、おそらくこれが初めてではないかと思う。これは飛びぬけて早い例であり、監督である押井守の「都市としての東京を描く」という強い意思のもとに初めて実現された。

多くの作品がロケハンを取り入れるようになるのは、これよりかなり後の話だ。そのあたりの裏事情を考察するテキストとしては、昨年の「TOKON10」で寄稿された岡村天斎の「DARKER THAN BLACK 黒の契約者」論往復書簡が興味深い。

http://blog.tokon10.net/?month=201005

「現実の場所を舞台にするという手法は最近とみに多くなっていますが、その理由のひとつにデジカメの普及があります。フィルム時代は1ショット百円…そんな貧乏観念が足かせとなり、そうそう気軽に写真を撮るという行為に踏み切れなかったのです。
ロケハンに行ってもついついケチってあとあと必要になる角度を撮っていないとか…そんなことが良くありました。それが一回のロケハンで一人頭三千枚とか平気で撮れる様になったのですから…」
(前記ブログ内「1.『技術』に背中を押されて  岡村天斎」より )

 これは注目に値するだろう。デジタル時代が、現実との融合への背を押したのだ。確かに、デジタル映像ならば取り込みも加工も極めて容易だ。リアルすぎる光景がアニメのキャラクターとうまく融合しない問題もデジタルなら解決できるだろう。

 ただ、それでも最初は予算の都合もあってスタジオ近辺におそるおそるカメラを持ち出すという感じだったようだ。「絶対少年」が静岡県の函南町丹那という明らかに都市ではない場所に舞台を持ち出すという手法がいかに画期的であったかわかっていただけると思う。

 設定・美術面での「絶対少年」の先駆性とは何か。それはおそらくほぼ初めて「聖地巡礼」が実施されたアニメであろうということだ。作品中で舞台がどこであるかはまったく触れられていない。丹那は田菜という名前に変えられている。それでも熱心なファンというのはすごいもので、ロケハン場所を探り出し、じっさいにその地を訪れ、写真を撮ってきてネット上で報告してしまう。放映当時、複数の「聖地巡礼」サイトが立ち上がったが、ここではそのうち一例だけ挙げておく。

http://ryubun.net/2005/10/10/262/

 脚本を担当した伊藤和典が現在伊豆に居を構え、地方から世界を見つめる視点に長けていたということはあるだろう。だがそれ以上に極めて謎めいた「ファーストコンタクトSF」というべき内容が魅力的だった。機械のようであり生物のようでもある。少年少女たちがこの作品の中で出会った存在はいったい何なのか。宇宙人とも異次元生物とも分からない。まったく理解の範疇を超えた異質な存在に出会ったとき私たちはどのようにふるまうのか。本当によく分からないものを表現するために、認知論や脳科学までが動員される。その描写はレム的ですらある。

 ここで緻密なロケハンが生きてくる。前半は静岡県田菜(丹那)、後半は横浜。リアルな現実に根ざした舞台の中に「よく分からない」ものが置かれることによって、絵空事ではない、リアルなファーストコンタクトが再現される。

 登場人物たちが出会い「マテリアルフェアリー」と名づけた存在の正体は何か。視聴者がそれぞれに回答を探していかなければならない。そのことから「とことん調べつくさずにいられない」熱心なファンがついた。「聖地巡礼」もその系譜にあるものだろう。
 ごく早い時期のNHK衛星放送ということもあって、残念ながら知らないままの人も多いだろう。今回のSF大会をぜひとも再評価の機会としたい。幸いにも、大会の直後にDVD-BOXが発売される。

 今回の大会では、望月智充監督と脚本の伊藤和典氏をお招きして、4日午前11時半から「絶対少年再考」パネルを開催する。参加予定の方はぜひおいでいただきたい。

http://sf50.sakura.ne.jp/timetable/timetable.cgi

(高槻 真樹)