» 2011 » 7月 » 19のブログ記事

ご当地SFを探す楽しみとは、それまでまったくアンテナに引っかからなかった思いもかけない作品との出会いにあるだろう。今回の場合「静岡」というキーワードを足がかりに網を広げ、思わぬ作品の発見に日々驚いている。その成果は、こうしてこのブログで日々お知らせしている。まさかこの作品が「静岡SF」であるとは。そんな新しい発見の連続だ。

 そんな中にあって、今回まさしく究極の「発見」といえるのが、SFファンにはほぼまったく知られていない「杉山恵一」という作家との出会いである。杉山氏は静岡の地方文壇でコツコツと自費出版を続けてこられた方で、残念ながら県外ではほんど知られていない。私もまったくの偶然から遭遇した。
 だがその作品の内容たるや、SFも純文学も軽く凌駕した奇想天外なものばかりだ。SFとはほとんど接触を持たないまま、ほぼ独力でラファティの如き奇想やバラードの如き思索やピンチョンの如き知的遊戯やバロウズの如きカットアップを打ち立ててしまった。あまりの奇想ぶりに静岡文壇では黙殺されがちだそうだが、ここは私たちSFファンこそが、杉山氏をプッシュするべきではないか。そう強く感じるほどに、作品とSFの親和性は高い。いったいその作品とはどのようなものか。少し紹介してみよう。
 残念ながらすべて、極めて小部数の自費出版であり、入手は大変に困難。ただし、今回の「ドンブラコン」では、杉山氏ご本人の提供にてディーラーズスペースで著作が販売される。ご期待いただきたい。

「地底の王国」(1993)191頁
 短編集。表題作「地底の王国」は、スティーヴ・エリクソンの「リープ・イヤー」が想起される、幻想込みのノンフィクション小説。大半は湾岸戦争での原油流出被害を調べるため、サウジアラビアを訪れた時の記録。油で汚れた水鳥を黙々と洗うシーンなどは、貴重な時代の記録といえる。「かぼちゃ畑を掘ってごらん」は、NWなテイストを感じる怪作。ある学園のクラスメイトたちの内面に潜む妄想が次々と実体化していき、最後に悪夢の楽園ができあがる。断章を積み重ねて虚構を膨らませていくスタイルは、バラードやラグンドン・ジョーンズを思わせる。「安穏経」は、日本語で試みられたカットアップ小説。カットアップの激しさは「ノヴァ急報」なみ。言語の合間からおぼろげに見えるのは宇宙創成から消滅までの壮大な物語。たぶん本書で一番の傑作。言葉の組み合わせのミスマッチは絶妙で、結構笑える。なにしろ宇宙創成の瞬間にいきなりスペースシャトルが出てくるのだから。

「閑ヶ丘物語」(1986)385頁
 ラファティの長編を彷彿とさせる、大変にシュールなコメディ。この世界と微妙に異なる「閑ヶ丘」に住まう政界・財界・文化界の面々が右往左往する中、ツチミカド様と妖しの巫女・金剛式部が対決、はたして閑ヶ丘に巨大地震は起きるのであろうか…とほとんど「帝都物語」のような展開。杉山氏の友人・知人が大挙して強制出演、そういう意味でも帝都物語的だが、物語は徹底してコミカルでドタバタ。ラファティの長編のごとく、常に何か異常な出来事が起こり続けている。ドンブラコンに向けて、25年ぶりの続編が現在執筆中。

「南アルプス探検隊」
 杉山作品では珍しく増刷された人気作。実際の生態系を取り入れているがノンフィクションではない。三人の男女の登山行を小説化した奇怪な長編小説。

「太田河原慶一郎氏の一日」(1982)214頁

 長編。夢の世界で目覚めた主人公が脱出しようと格闘する、筒井康隆ばりの「夢の文学」。自作による手書きイラストや肉筆が作品中に取り込まれ、カオスははてしなく拡大していく。

「藤枝物語」(1986)192頁
「続・藤枝物語」(1987)202頁
 長編。杉山氏の少年時代の思い出…なのだが、非常になまりのきつい藤枝弁で表記されているため、ほとんど何を言っているのか分からない(笑)ほとんどダダイズムの音声詩のような印象。

「豚鷲の止まり木」(1984)241頁
 ある平凡な会社員が、会長から神へのお使いを頼まれる。不条理な企業小説。

「尻」(1985)114頁

「癩王抄」(1986)102頁
「喚問」(1987)126頁

「雲の檻」(1983)130頁
「青絲編」(1984)110頁

 前衛詩集。若さとそれに伴う苦さを全面に押し出した味わい。
「定連は雲の座に収まりけり惑星もそれぞれの止まり木でかたづを飲む」など、SF的表現も多用されている。「尻」には五次元世界を舞台にした詩論というおよそ理解し難いものが収められている。「喚問」は裁判の最終弁論の形を取った長編詩だが、バロウズばりのSFカットアップ。「癩王抄」はムアコックばりのヒロイックファンタジー長編叙事詩。現実世界とファンタジー世界をランダムに行き来する、主人公が欝気味という点でもムアコック的。

 ちなみに杉山氏は無名の文芸マニアなどではなく、実はかなりの有名人である。静岡大学の名誉教授にして、日本にビオトープの概念を紹介した著名な環境学者だ。環境保全関連では膨大な著作を誇っている。だが、その頭の中には、ビオトープとはあまり関連のない強烈な想像力が息づいている。今回のドンブラコンでは、その実像を明らかにしていきたい。

 まず「静岡SF大全」では、もっとも「静岡SF度」が高いシュールなドタバタSF「閑ヶ丘物語」を、次回29日にくわしくご紹介する。

 さらに本大会では、「杉山教授の奇妙な冒険~ビオトープから奇想小説まで」と銘打って、その奇天烈な世界を紹介するパネルを企画している。杉山氏ご本人もお招きしており、奇書批評家の北原尚彦氏とともに作品世界に迫っていきたい。静岡SF最大の知られざる異才。ぜひともその世界を体験していただきたい。(高槻 真樹)