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 さて本日は、実行委員長にSFセミナーでお見せした本についてご紹介したい(5月5日「静岡SFの奥深さ」参照)。

静岡といえば特産はプラモ。静岡がホビー王国であることは、ご存知のSFファンも多いことだろう。今回静岡でSF大会が開かれる理由のひとつに、この「ホビー王国」ぶりもある。業界を代表する「タミヤ」をはじめ、現在県内になんと八社ものプラモデルメーカーがひしめくというのだから驚かされる。
 だがなぜ静岡で模型が栄えたのか?本書は、静岡の地域出版だけあって、静岡とホビーの関係をコンパクトな分量で教えてくれる。模型業界史や社史ではなく、地域産業史だからこそ見える視点。これが新鮮である。
 まずは冒頭の「ホビーのまち静岡 その五〇年」を見てみよう。静岡はもともと豊富な材木産地を抱え木工産業が盛んだった。駿府の寄木細工など優れた技術を基盤として木工の飛行機模型産業が生まれ、これが戦後にプラスチックに転換され、プラモ産業が成長していく。職人の腕だけで勝負できる木工模型と違って、高価な金型を外注しなければならないプラモデルはリスクが高い。おのずと新作に社運が賭けられることとなる。そんな中で、他社との差別化をはかるべく、プラモの外箱を飾る「ボックスアート」の重要性に注目したタミヤは、やはり先見の明があった。ここに戦後ホビー王国の第一歩がある。なにしろ当時超売れっ子画家であった小松崎茂に社長自ら嘆願の手紙を送り、承諾を得たというのだから熱い。
 本書ではそんなボックスアートに注目し、SFファンにおなじみ小松崎茂をはじめとする「箱絵の巨匠たち」を紹介する章もある。怪獣画で知られる梶田達二も登場する。すでにこの世にない小松崎はやむを得ないが、上田信、大西将美、島村英二など現役のアーチストたちの肉声を直接集めた内容は第一級の資料と言っていいだろう。特に小松崎茂と双璧を成す巨匠・上田毅八郎の九〇歳を超えてなお変わらぬ健在ぶりがすごい。従軍体験をプラモデル画に生かしたという凄みには言葉を失う。戦艦のスケッチをすることがスパイ行為とみなされ、もってのほかだった時代に、「アメリカではなく上官と戦争しながら」ひそかにスケッチを描きためた。ここまで行くと戦艦画もレジスタンスである。時に戦争賛美の産物のように言われるが、平和あってのプラモなのだと痛感する。
 本書は地元出身・在住のライターたちがそれぞれの専門分野から寄稿しているが、唯一の縛りとなるキーワードは「静岡」。ここが通常のホビー本と大きく異なる。特に異色なのが郷土史家大村和男氏による「ホビーの源流」で、戦前から古代までの県内ホビー史をさかのぼり、いわば「ホビーのまち静岡 その五〇年」の前史部分を描き出す。雛道具や寄木細工の伝統はまだ予想の範囲内だが、登呂遺跡からミニチュアの土器や横槌が出土しているとか、安部川上流域の山村では小正月にミニチュアの臼や杵を作って子供に与える習慣があった、とかいう情報には驚くほかない。
 この夏、ドンブラコンに来られる方には必携の一冊と言っていいだろう。だが残念ながら地域刊行物であり、静岡県外で入手することはかなり難しい。大会会場では販売させていただく方向で検討中だが、会場に来られない方も入手方法はないわけではない。こちらのサイトをぜひ参照していただきたい。
http://www.shizuoka-cf.org/kikan/index.html

 本書が静岡県外で売られていないのはまさしく痛恨事である。ぜひSFファンの力で買い支えようではないか。(高槻真樹)