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   1971年東宝作品『ゴジラ対ヘドラ』。監督は坂野義光。出演:山内明、木村俊恵、川瀬浩之。
 静岡県は気候温暖にして政治的にも平穏。美しい富士山を擁し、日本の平安を 象徴するがごとき土地柄だ。にもかかわらず、いや、であるがゆえ に、日本で一番怪獣襲来の多い土地だ。
 富士には怪獣が良く似合う。
 ゆえに、富士山が最も美しい怪獣映画『三大怪獣 地球最大の決戦』を取り上 げるべきかとも思ったが、あえてここに問う、『ゴジラ対ヘドラ』 を。

 時は高度経済成長も頂点に達した1970年代初頭。急速な経済発展の一方、公害 という形の環境破壊で人類はおろか地球生態系へ危機が及んできた。景勝・田 子ノ浦も工業排水によるヘドロが堆積し、駿河湾でも奇形の魚が獲れる。そこへ 巨大なおたまじゃくし状の怪物が出現する。海洋環 境学者の矢野とその幼い息子・研はこの怪獣に遭遇し、ヘドラと名付けた。
 少年・研は夢の中で、人間の排出する廃棄物・汚染物質が海の生命を殺し、や がてゴジラの元に至り、ゴジラの怒りを買う樣を幻視する。
 果たして、ヘドラは富士市に上陸。それに呼応するが如くゴジラも来襲する。
 ゴジラ対ヘドラの格闘。ゴジラの鉄拳に飛び散るヘドロ。放射能攻撃で生じた 放電に痛手を受けたヘドラは海に逃げる。
 ヘドラの異常な生態にとまどう科学者。父・矢野博士はヘドラが鉱物質で構成 され廃棄物で汚染された環境でのみ生存できると看破し、人間の横 暴がヘドラを呼んだと怒る。
 再び現れたヘドラは硫酸ミストを噴射して飛行する能力を獲得していた。人々 はヘドラの瘴気に爛れ崩れ溶ける。評論家はヘドラが水棲・上陸・ 飛行と形態進化を続けている事を指摘して、今後、どのような進化の道を取るか予測不可能 である事を告げる。広がる社会不安。先鋭的な若者は、 豊かな社会と生存可能 な環境が両立しない事に絶望し、刹那主義に走る。
 進化したヘドラは再度上陸する。自衛隊は矢野博士の発案を容れ、富士の裾野 に巨大電極を設け、放電攻撃を企てるも、たまたま送電線を破壊さ れ作戦は窮地に陥る。そこへゴジラが出現。ゴジラの身を挺した攻撃にヘドラは瀕死の呈で 脱皮して空中へ脱出。ゴジラはなんと放射能噴射で飛行 追跡する。追いすがる ゴジラはついにヘドラを捕え、酷くとどめを刺す。
 ヘドラの死に歓喜する人間に、しかし、怒りの一瞥を投げて、ゴジラは南海に 去った。

 『ゴジラ対ヘドラ』は不遇な作品だ。社会派テーマと娯楽性の融和の困難さ、 監督自身の作家性と商業性のミスマッチ、なによりサイケデリック 表現が低予算ゆえに安物に見えてしまった。
 例えば、オープニングタイトルで007映画のタイトルロールと同じ表現形式を 試みた。ゴーゴークラブのお立ち台で全身タイツの女性が体の線も露わにセク シーに踊り狂う。これらは娯楽性を加味したものだろう。だが、同じクラブで酒 に酩酊した青年は幻覚を見る。本来はドラッグに酔っ てと描きたかったのであろうこのシーンでは、狂騒する若者達の頭が魚と化して地球を汚染する人類を糾 弾する。ブリューゲルいや、サイケデリッ クな極彩色にボッシュの如き悪夢を 描こうとした意思を私は見る。
 また、ヘドラとの最初の遭遇で、廃棄物が縷々広がる海底の薄暗き潮の奥から 現れ遊弋して通過する巨大鮫のごときヘドラは、坂野監督得意の海 中撮影で培ったドキュメンタリー手法であろう。一方で、来るべき災害を少年のクレヨン 画のカットを用いた紙芝居的表現。ヘドラ襲来に混乱する 市民各階層(サラ リーマン・主婦・OL・漁民・労務者・女子学生等々)をテレビカメラで正面から とらえて不安恐怖を語らせ、そのテレビ画面が マルチ画面となってスクリーン全体を埋め尽くすという手法も採った。これらは社会不安を表現する社会派の技 法だろう。
 また、こういう矛盾もある。主人公の子どものヒーローとして召喚されるゴジ ラは怪獣映画=ヒーロー映画の方向性を推進しようという映画会社 側の意図があったに違いない。一方で、飛び散るヘドロに生き埋めになって死ぬ麻雀卓を囲 んでいたサラリーマンとか、硫酸ミストにより肌は焼け 爛れ、肉は崩れ落ちて 骨のみ残る道行く市民などは、『ガス人間第一号』『マタンゴ』など怪奇映画の表現を踏襲したものと言える。カタルシスか グロテスクか。怪獣映画のあり方 への作り手側の迷いといったものも感じられる。
 ゴジラとヘドラの対決で、互いの左を取ろうと回り込みながら間合いを詰めて いくというくどいほどに長いシーンは、黒澤明の『姿三四郎』の姿 と老柔術家・村井との試合シーンへのオマージュではなかったか。その一方で「怪獣映画 にスピード感を」というプロデュース側の意向に沿ってゴジラを飛行させるの に、放射能噴射による逆向き飛行をさせてしまったのは、御都合主義的荒唐無稽に抗して「リアリティ」を求めた監督の良心のなせるわざではなかったろう か。初監督作品で商品性と芸術性と報道性と経済原理に引き裂かれた苦悩を感じ ざるを得ない。志高きが故にB級映画 になってしまった作品だと私は思う。
 この作品は私の見た映画の中で、最も汚ならしい映画だ。しかし、その汚らし さは「現実の汚らしさ」を突きつけるために違いない。坂野監督は ゴジラに空を飛ばせたかどでゴジラ映画から追放されたという。しかし、真実は現実を描こ うとしたからではなかったか。環境問題を告発した作品 としてレイチェル・ カーソンの『沈黙の春』、有吉佐和子『複合汚染』など、今は事実誤認やセンセーショナリズムの否定的部分ばかり喧伝される が、果たして当時提起された 問題は現在解決されたのだろうか?1971年当時の公害病、水俣病とカネミ油症は、治療法が未だ見いだされず、政 府・加害企業の補償さえ満足ではないばか りか、社会全体が償いを回避しようとしている。被害者の死によって問題が解決されるのを、日本人は息をひそめて待っているかのようだ。
 日本人はゴジラが現れて、穢れを洗い流してくれるのを待っているのか。そう こうしているうちに、自然に対する畏れを知らぬ中国が経済発展の 名の下に、環境破壊を汚染被害を圧殺しかねない勢いだ。越境大気汚染による酸性雨。黄河 上流からの工場廃水は川沿いの中国国内に被害を出しつ つも東シナ海へ流れ込 む。「見ぬ物清し」と汚い現実から目をそらし、美しい日本を見つめるだけで未来はあるのだろうか。
 坂野義光は、その後、世界破滅テーマの特撮映画『ノストラダムスの大予言』 の特撮班監督を手がけた後、自然ドキュメンタリーで評価を高め、 TV番組『す ばらしい世界旅行』『野生の王国』で監督を務めた。また、1982年、スタジオぬえが参加したSFアニメ映画『テクノポリス 21C』を企画した。この作品はロ ボットと人間の共生する市民社会を描いており、後のTVアニメ『超時空要塞マク ロス』『未来警察ウラシマ ン』や『機動警察パトレイバー』『バブルガムクラ イシス』など、科学・技術の発達により変容する市民生活を描く作品へ影響を与えた。環境と文 明と生活。その密接な関わりが顕現させる多様な実相を記録的 に写す事。それが坂野義光が求めたものではなかったろうか。
 ちなみに矢野博士のフルネームは矢野徹と伝えられているが、作品中でフル ネームが出てきた形跡は見当たらない。
                            (鼎 元亨)

「静岡SF大全」へのご招待

大阪在住だが、どうしてもという時には渋々東京へ行かざるを得ない。忙しいので当然新幹線を使う。もちろんひかりやこだまではなく、のぞみである。したがって名古屋の次はすぐに新横浜か品川。列車の中でSF本に熱中していると、このふたつの駅の間に横たわる広大な土地があることは、なかなか意識に上ってこない。
 だが、18切符を片手に東海道線を乗り継ぐならば、見える光景は一変する。浜名湖、天竜川、行けども尽きぬ緑の茶畑、橙の蜜柑、そして青い駿河湾。世界四大バイクメーカーのうちYAMAHA、スズキが本拠を置き、ホンダも発祥の地だ。タミヤ模型も本拠はここであり、バンダイはガンプラの生産拠点であるホビーセンターを置く。(※)。さらに続くは大井川鉄道、富士山、伊豆…一気に旅の主役へと躍り出るのだ。
 そんな静岡を舞台にしたSFはないか。実行委員会に問われてはたと困った。確かに静岡の伸縮自在な存在感はSF的だが、「静岡SF」はあるのだろうか?
 むろんあるのだ。しかもかなり意外な顔ぶれが。
 大反響を巻き起こした「東京SF大全」を受けて、「静岡SF大全」も私たち評論賞チームが担当させていただくことになった。大量すぎて絞り込むのに苦労した「東京SF」と比べても、いやいや、なかなか、侮れない。探せば、ここにも、あそこにも、あるある――ある。まさかあの作品が静岡SFだったなんて。私たちも驚いた。ぜひその驚きを共有していただきたい。
 そしてもし「なぜあの作品がないのだ」と思われるのであれば、ぜひ情報をお寄せいただきたい。水面下に潜む「静岡SF」は、まだまだたくさんあるはずである。
                    (評論賞チーム代表・高槻真樹)

※12月24日追記・素研管理人のakaponさんから記述の誤りについてご指摘をいただきました。akaponさん、不勉強で申し訳ありませんでした。ご指摘感謝いたします。表現をこのように変更させていただきました。

(誤)YAMAHA、スズキ、ホンダ、カワサキ。世界四大バイクメーカーのすべてがここにある。バンダイ発祥の地もここであり、タミヤ模型もここに本拠を置く。

(正)世界四大バイクメーカーのうちYAMAHA、スズキが本拠を置き、ホンダも発祥の地だ。タミヤ模型も本拠はここであり、バンダイはガンプラの生産拠点であるホビーセンターを置く。

※2011年1月3日追記

「静岡SF大全」は、毎月、第1月曜日・第三月曜日にアップしていきます。

お読みになっていただけたら、幸いです。